社会福祉士 ― 『自助』と『公助』をつなぐ架け橋(1)

本稿の意図

「支える人を支えるしくみ」をつくるため、社会福祉士の社会的認知度を高め、その重要性を訴える。

『共助』のキーパーソンたる自治会長さんなど地域の世話役の皆さまが、素早く必要な情報や行政支援にアクセスするためには、「わがまちの社福士さん」が必要です。地域住民の暮らしにまつわるお困りごとに早期に専門家が介入することにより、地域の世話役の負担を軽減し、継続的な地域活動につなげ、地域住民に対する迅速かつきめ細やかなサービス提供につなげるべく社会機運を醸成します。

今、社会福祉士に注目する理由

令和2年10月某日、『いまさら共助と言われても!?』 オンライン座談会を開催しました。
【参加者】
 生駒 友一 氏(おおた社会福祉士会会長、大学芋屋「甘薯 生駒」三代目。保護司)
 菊山 宗太 氏(仮名。とある山間の基礎自治体職員、社会福祉士。地域活動にも幅広く参画)
 山田 真裕 氏(関西学院大学法学部教授、専門分野は政治参加,投票行動、選挙行動)
 前野 芽理  (株式会社きもちとしくみ主筆、あらゆる社会事象に浅く広く興味を持つ)

前野:今回のテーマは、ズバリ「社会福祉士って何?」です。

菊山:また、えらく一般読者の食いつきの悪そうなテーマを選びましたね。

生駒:社会福祉士としては、注目してもらえるのは非常にありがたいですね。とはいえ、広く社会一般の方々に興味を持っていただく難しさは、おおた社会福祉士会の活動を通して日々痛感しているところです。

前野: 本テーマは、サムライ主婦の異名をとる前野の、野生の勘で決めました。

菊山:サムライ主婦。

生駒:野生の勘。

山田:あえて火中の栗を拾いに行く前野さんが、今度はどこへ向かうのか。

前野:あのですね、実は最近、本能の警戒警報がカンカン鳴りっぱなしなんですよね。今の日本社会に蔓延しているこの空気、放っておいていいのか、と?
 現代の日本社会において、うかつに『共助』を語るのは、相当リスキーです。インターネットの世界では、まだ何をやるかもつぶやいていないのに「相手の気持ちも考えないで余計な手出しをするな」と、どこの馬の骨とも知れない通りすがりにぶっ叩かれるという始末。
 このご時世で、新総理から唐突に「自助・共助・公助」といわれても、いまや、昭和の香り漂う昔ながらお節介おじさん・おばさんなんて、犯罪予備軍扱いですよ。だったらいっそ、共助はすっぱりあきらめて、地域のお世話はプロに任せりゃいいんじゃないの?と思った次第でございます。

山田:それで、今回、社会福祉全般の相談支援の専門家である社会福祉士にフィーチャーしたわけですね。

前野:はい。

社会福祉士は、守備範囲がめちゃくちゃ広い!

菊山:うーん。前野さんのご期待に沿えるかどうか。一口に社会福祉士と言っても、働き方や得意分野にかなり個人差が大きいんですよね。
 社会福祉士の活動範囲は高齢者、障害者、児童、地域といった社会福祉施策全般から、病院などの保健医療分野まで多岐にわたっています。僕のように社会福祉士の資格を持ちながら、専門職ではなく一般職として行政機関などに就職して、担当部局の一員として福祉にたずさわる人も多いです。
 逆に言えば、社会福祉士という資格は守備範囲が広すぎて、個々の社会福祉士は、自分の職場に必要な専門知識に特化しがちというのが実態です。

前野:そこも含めて、ぜひお話を伺いたい。
 町内会やPTAのお世話をしていて、会員の皆さんから「とにかく私、つらいんです!」と訴えてくる人がたまにいらっしゃいます。そのお気持ちをお伺いする中で、「この人、イライラのぶつけ先を間違えてるんじゃないかしら」と感じることもしばしば。相談窓口の人に自分の思いを伝えきれずに挫折しちゃったという経験がおありなのかもしれないなと思ったり。
 社会と人との「つながり直し」をテーマに掲げる当社としても、お悩みごとと相談先のマッチングはぜひとも支援したいところです。

町内会・PTAから聞こえる「悲鳴」

山田:お悩みごとと相談先のマッチングというのは、これからの時代、非常に大事かもしれない。
 僕の研究分野は政治参加や投票行動の分析なのですが、研究していて最近とみに気にかかるのは、町内会やPTAなどから聞こえる「悲鳴」です。

 自治会/町内会やPTAのような住民自治の活動は、かつては地域のお祭りや学校のバザーなど、活動を通じて身近なコミュニティの交流を楽しみながら維持させていく心の余裕が、社会から急速に消えつつあるのを感じます。

前野:だけど、町内会やPTAって、「政治」とはかけ離れているのでは?
 わたしが日頃やっている町内会やPTAのゴミ当番だの、旗当番だの、あんな惰性型無料強制労働の、どこが政治と関係あるの?

自治活動に元気がないと行政に「地域の声」が届かない

山田:政治学と一口に言っても、それこそ社会福祉士同様、守備範囲がとても広いのですが、僕がやっている政治参加の研究において、地域コミュニティはとても重要な存在です。
 政治家は、国会議員であれ都道府県・市区町村の議員であれ、「みんなの声」の代弁者としての使命を担っています。なので、自治会/町内会は、地域の要望を政治に反映させるために、選挙となれば協力して、地元の議員を政治の壇上に押し上げてきた。PTAなら、学校の式典などには地元の議員さんが来賓として挨拶に出てきたりもするわけです。
 ところが、昨今、どうもかつてと様子が違う。マスメディアでは「政治離れ」という切り口で語られることが多いのですが、実際のところ、どうでしょう。政治に関心がないというよりも「政治どころではない」という状況の人が増えているのではないか。
 自治会/町内会やPTAにも「それどころではない」という人はいるでしょう。特に地方都市では、地域コミュニティの協力が、選挙において非常に重要なのですが、町内のゴミステーション当番でさえもめるのですから、地域住民にとっては「もはや選挙の応援どころではない」というのが本音なのではなかろうか。もっとも、これは研究成果というより僕の肌感覚に近い認識なのですが。

前野:なるほど。そういえば、わたしが仕事で選挙のお手伝いをするときも、自治会/町内会の結束の強い地域は、選挙のときにも統率の取れた動きをしている傾向が見られます。
 自治会/町内会の当番も、PTAの活動も、きっと一昔前なら大半の人が「これぐらいならやりますよ」とそれなりに快く引き受けられたものだったんですよね。それが、今の人には許容できない。
 自治会活動やPTA活動に対する強い負担感・不満感は、もちろん、価値観の多様化という社会的背景もあるでしょうし、活動の強制に対する反発もあるでしょう。しかし、本当にそれだけかしらとわたしは思うわけですよ。その反発は、支え合うとか助け合うとか考える余裕のなさの裏返しなのかもしれないな、と。

ネットの声に押し流されて、リアルの対人関係を避ける人々

生駒:自治会やPTAに対する批判は本当に多いですね。「強制するな」とか「活動の意義がない」とか。

前野:そういうネットの批判の声に押されて、リアルワールドでも人とのかかわりを過剰に避けたり、困っている人を見てみぬふりをしたりする人は少なくないでしょう。
 自治会にしろ、PTAにしろ、元々気の合う同士で集まっている仲良しサークルではないですからね。自治活動といっても、たまたまそこに居合わせたローカルな烏合の衆が、たまたまつるんでやっているだけです。「次はあなたの順番です」と、唐突に意義の分からない謎当番や役員を押し付けられるぐらいなら、身近な人との関わりなんて、ない方がいい。やらない自由を主張したい気持ちは、痛いほどわかります。

身近なつながり、ゴールは『防災』

菊山:平時は「他人のことは知りません、私のこともほっといて」でいいかもしれないけれど、万が一のとき、ほんとにそれで大丈夫かと心配になりますね。
 僕の中では、自治会/町内会やPTAの活動のゴールは防災なんです。僕は自治体職員ですから、災害のときには住民を支援する側の人間です。地元の消防団にも入って活動しています。自治体職員としても、消防団員としても、災害が起こったら、身近な人同士の助け合いはやっぱり必要不可欠だと言わざるを得ません。災害は、いつ、どのように起こるのか分からない。有事の際は自治体職員として、できる限りのことをするつもりです。でも、災害の規模によっては、行政の支援=公助が迅速に行き渡るとは限らないとも思っています。

ネットで声の大きい人は『もしも』のときに助けに来ない

山田:大規模災害ともなれば、自治体職員自身も被災者ですからね。広範囲に甚大な被害が発生した場合、公助が届くまでの間、どのように持ちこたえるか。その時、その場に居合わせた人同士で何とかするしかないわけです。自治会/町内会の日頃の活動は「もしものとき」に備えて、顔の見える関係づくりのためには、「面倒だからなくしましょう」というわけにはいかないのでは。

前野:そうですね。PTAのつながりも、我が子が学校で被災する可能性を考えれば、やはり、ないよりあったほうがいい。先生だって自分の家庭がありますからね。親が職場で被災して、我が子を迎えに行けないことを想定したら、親が学校に迎えに行くまでの間、我が子は必ず誰かのお世話になるわけなので。

菊山:学校が地域の避難所として機能しうるのかは、なかなか難しい問題も多いですけどね。いきなり地域住民主導で避難所開設まではかなりハードル高いですけど、全くの見ず知らず同士で一つ屋根の下過ごすより、多少なりとも顔見知りな人がいた方が何かと心強いですよね。

山田:いずれにせよ、インターネットで身近なコミュニティの愚痴や文句を言い合う仲間が、いざというとき駆けつけて助けてくれるわけではない。このことは、僕自身、肝に銘じておきたいですし、事あるごとに学生たちにも伝えるようにしています。

地域コミュニティには「支える人を支えるしくみ」が必要

前野:でもね、わたし、皆さんが身近な人たちとの関わり合いを放り出したくなる気持ちも分かるんです。自治会/町内会だの、PTAだの、やればやるほどやらない人から文句を言われて、むなしくなるのはしょっちゅうです。

生駒:言うだけだったら、どんだけでもきれいごと言えちゃいますからね。

前野:惰性でこなすクソボラだったら「文句があるなら廃止!」で済むからまだいいけれど、お悩み相談をお受けするのは、さすがにかなりつらいです。そんな人生捨てちまえ!とか、さすがのわたしも言えないですし。
 わたしが40代前半に町内会長をやったときは、正直途方にくれましたよ。町内の方々から、お困りごとを相談されて「わたしにそれを言われても・・・」って、ずいぶん頭を抱えましたよ。家族のこと、お金のこと、健康のこと、ご近所同士のトラブルのこと、暮らしにまつわるいろんなお話を聞きました。

山田:きっと、町内の人にとって、前野さんがそれだけ身近に感じられたんでしょう。お困りごとを抱える人にしてみたら、相談のしやすさというのはとても重要なんですね。

生駒:ああ、そうだと思います。僕の家は祖父母の代から大学芋屋をやっているのですが、どうも食べ物屋さんというのは、親しみを持っていただきやすいようで、僕も地域の人からいろんな話を伺います。
 僕の母も、よくお客さんや町の人から相談事を持ちかけられていましたね。母は、大学芋を売るかたわら、地域のお節介おばさんとして、あちこちお世話を焼いていました。

前野:なんと素晴らしい。わたしの場合、町内会長当時は小さい子どものママだったので、それが独特の親しみやすさにつながっていたのかも。実は、何ならこっちが死にたいぐらい育児ノイローゼの真っ最中だったんですけどね。

手遅れになる前に必要なケアにたどり着く方法

山田:地域コミュニティでも、家庭でも、ケアする人のケアが決定的に不足していると感じます。介護疲れからくる殺人事件も連日の方に報じられていますよね。お世話する人・される人の距離感が心身ともに近すぎるのもしんどいでしょう。

前野:ええ、本当に。いくら親しみやすいといったって、わたしは専門知識もないし、スキルもない。住民個々のお悩みにジャストミートな相談窓口すら分からない。「こんなとき、どこに相談すればいいの?」という、相談するための相談相手が必要な自治会や町内会のお世話役は、きっと多いと思います。

菊山:自治会などの地域の世話は、ほぼ持ち回りですからね。スキルや知識を持っている人だけがやるわけじゃない。

山田:とはいえ、前野さんは基本的にはアクティブだから、何となれば市役所の担当課など聞きに行ったりしたのでは。

前野:しましたよ、当然。しかしながら、どうも伝え方が悪かったらしく、ひっ迫感が伝わらず。毎回、毎回、マイルドに追い返されて花と散る

菊山:ああ・・・(何かを察した)。

前野:仕方がないから、最終的には忍法知らんぷりですよ。うちの町内会は高齢化が進んでいますからね。住民から寄せられるお悩みごとの大半は、お迎えが来るまでの辛抱です。

山田:そこは太字強調してはいけないところでは。

生駒:そういうことなら、社会福祉士が自治会/町内会に参画すると、お役に立てる場面もあるかもしれませんね。

 たとえば、認知症などにより物事を判断する能力が十分でない方に対して(法定後見)、あるいはそうした判断能力の低下に備え(任意後見)、場合によっては成年後見制度の利用を考えるケースなどが考えられます。

前野:成年後見制度?

社会福祉士と成年後見制度(次回予告)

生駒:社会福祉士が権利を守る援助者=成年後見人として選任される場合もあります。後見人は先ずこれまでの生活状況を確認した上で、本人(被後見人)の思いを尊重しながら、今後も安心して生活できるように支援していきます。
 たとえば、通帳を預かって家賃の支払いをしたり、介護サービスや医療機関での各種手続きや費用の支払いなど、社会福祉の知識や援助技術を活用しながらサポートするなど、本人の思いを尊重しながら生活面でサポートする役割を担っています。
 社会福祉士の中には独立して事務所を構えて、さまざまな相談業務のかたわら成年後見人を受任している人もいます。

前野:知らなかった・・・。成年後見制度の案内は、私の住んでいる市では、回覧板に挟まって案内が回ってくるけど、真面目に見たことなかったわ。

菊山:おそらく多くの自治体では地域包括支援センターに成年後見制度のの紹介や利用の相談を担当する社会福祉士を配置しています。また近年、国(厚生労働省)は成年後見制度の利用を促進しているので、地域の社会福祉協議会でも成年後見の事業に取り組む団体が増えてきています。
 地域によってまちまちとは思いますが、開業している社会福祉士は、地方都市によってはそんなにたくさんいないです。自分で探すのも大変なので、地域包括支援センターや社会福祉協議会に紹介してもらうと助かる人は多いでしょうね。

生駒:成年後見人には、一定の要件を満たした親族のほか、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家も候補者として選べます。法定後見の場合、最終的には家庭裁判所が適切な後見人を選びますが、財産管理を主な目的とした場合、費用の関係で司法書士が選ばれることが多いですね。親族が身の回りのお世話ができないときなど、金銭面より生活面のサポートを手厚くしたいときは、地域の医療や介護、福祉に詳しい社会福祉士が選ばれることがあります。

前野:そのあたり、次回、もっと詳しくお聞かせください。

重い。

なんだ、そのシンプル過ぎる感想。

そして遠い。

ギクッ。

自治会非加入の我が家にとって、前野さんのお悩みが、あまりに重く、あまりに遠い。
自治会離れが進む昨今、おそらく多くの読者も同じなのでは。

ずいぶんはっきり言うわね。

とりあえあず、サムライ主婦が無駄に太字で腹筋持っていかれました。

評価ポイントそこですか。

あとは、どうやら前野さんの町内会には菊山さんと生駒さんが必要らしいということが、よくわかりました。

だがしかし、問題はお二方とも我が家から数百km以上離れた場所に住んでおられるという。

オンラインで時空を超えてもダメですか。

どうかな。何とかなるかもしれないし、ならないかもしれない。

弱気になってどうすんの。

とーもだちーになるーためにーひーとはーであうーんだーよー

あ、現実逃避で幼児退行し始めた。

かくなる上は、手近な交尾でお茶でも濁すか。

一気にアダルトに戻った。

まあいいや、交尾ごときで読者の心の眼は濁せず。

あ、立ち直った。というか、さっきから気になっていたんですけど、この企画、そもそもオンラインではできない身近なケアの助っ人として、社会福祉士さんにフィーチャーするって話なのでは。

そうそう、そうでした。意外と社会福祉士さんって何なのかご存じない人、多いから。

ここだけの話、実はわいも予備知識ゼロ。

なんだかんだで本記事が他人事な理由はそこでしょ。予備知識ゼロならこれから一緒に学べばいいよ。

社会福祉士さんのことを知ったら、どんないいことあるんだろ。

というわけで、乞うご期待。 このテーマ、もう遠いとは言わせない!

参考サイト

社会福祉士国家試験の受験者・合格者の推移(2019年度版)累計合格者数241,971人

公益社団法人 日本社会福祉士会

日本社会福祉士「活動紹介DVD動画」【社会福祉士ってなに?】 【社会福祉士会ってどんなところ?】 

社会福祉士は独立できる?事務所を開業する手順や注意点・取得するべき資格も解説!

裁判所 成年後見制度について

専門職後見人として司法書士、弁護士、社会福祉士どれが一番いい?

実践報告「社会福祉士が行う成年後見制度に関係する活動例」 岡 恒忠

司法ソーシャルワークと成年後見制度拡充活動―「佐渡モデル」からみる地域支援への発展プロセス―

前 法テラス佐渡法律事務所(現 法テラス東京法律事務所)常勤弁護士 水島 俊彦

この記事は、(株)きもちとしくみ主筆 前野芽理が書いています。 コラム、販促記事などの執筆のほか、司会業、セミナー支援も承ります。

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